アーツ千代田 3331 特別企画展「疫病・たいさ〜ん!江戸の人々は病いとどう向き合ったか」

展示内容

アマビエ氾濫

1846年(弘化3)に肥後国(現在の熊本県)の海中に現れ、疫病流行の予言と回避法を伝えたとされる江戸後期の妖怪 アマビエが時を超え、マスクやキーホルダー、Tシャツ、陶器などさまざまな形態、商品となって現代に氾濫しました。

人間にとって変わらぬ願い「疫病退散」は、時代によってどのように表されてきたのでしょうか。本展では、アマビエ氾濫の現代から江戸時代へ時を移して、疫病退散の願いから生まれたさまざまなものを見てみたいと思います。


「肥後国海中の怪(アマビエの図)」
(京都大学附属図書館所蔵)

熊本県天草市 下浦土玩具(しもうらどろがんぐ)
「アマビエ」

願掛けとまじない、江戸の神仏

江戸時代には、疱瘡(ほうそう)や麻疹(はしか)といった疫病の爆発的な蔓延がたびたび起こりました。その禍を逃れるために人々が真っ先に行ったことが神仏への祈りでした。また、疫病を疫病神の仕業だとし、いったんは受け入れ、祀り、なだめて送り返すということも行われました。このセクションでは、その攻防戦を見ることにしましょう。


「願懸重宝記」
(個人蔵)

・願掛け
牛頭天王を祀り疫病退散に効果があるといわれていた江戸神社や八雲神社(神田明神 摂末社)など、江戸の人々が願掛けに訪れていた神社や場所が数々存在します。江戸で願掛けに効果があるとされた神仏や、独特な願掛けの作法が記された『願懸重宝記』を元に「疫病退散 願掛けスポットMAP 」を作成し展示します。(ご来場の方には、携帯版MAPをお配りいたします)

・まじない
疫病神と戦う武将などが描かれた絵や人形を置く、赤いものを纏う、護符を門口や身の回りに貼るなど、疫病退散を願って行われた「まじない」も数々あります。現代においても、「病が流行したら私の姿を写し、人々に見せよ」との言い伝え通りに、アマビエの姿を書き写す行為がSNSによって拡散しました。

暮らしの中の疫病退散

馬喰町にあった菓子屋「淡島屋」の名物・軽焼は、「病を軽くする」と疱瘡や麻疹の見舞い菓子として大変好まれ、紙袋には、達磨や鯛、金太郎や桃太郎などの縁起物が多色刷りで描かれていました。疫病流行の様子、具体的な対処法などを速報で伝えるかわら版や、霊獣ラクダやゾウの見世物など、パンデミックがもたらした身の回りの変化や市中の出来事についてご紹介します。


疱瘡袋「淡しま」
(吉德資料室 蔵)

千社札(連札)
(個人蔵)

麦殿大明神

麻疹と戦う麦殿大明神は、邪鬼(麻疹神)を踏みつけ、人々がそれを拝む姿で描かれました。麦には「はしか」と呼ばれる部分があるため、麻疹に罹ったもののすでに回復したと受け止められ、信仰を集めました。江戸時代には薬袋を鎧に見立てた姿で描かれましたが、籠による見立細工が当時多くつくられたことから、本展では籠を用いて麦殿大明神をつくり、新型コロナウイルス感染症に見舞われた現代に麦殿大明神を呼び出します。会場では、麦殿大明神の立体とメイキング映像を展示します。ちなみに、千代田区には籠の神様を祀る籠祖神社(神田明神境内)があります。


麻疹絵「麦殿大明神」
(凸版印刷株式会社 印刷博物館蔵)

疱瘡絵・麻疹絵、赤の力

江戸で感染が流行した疱瘡は、生命が危険にさらされる恐ろしい病とされていました。疱瘡絵(ほうそうえ)は、疫病退散の願いや回復への祈りを込めて、 魔除けを表す「赤」を用いて描かれたものです。その多くは、強さを象徴する鍾馗(しょうき)や達磨、金太郎や桃太郎、源為朝などの武将がモチーフとなっています。


疱瘡絵「鯛車」
(凸版印刷株式会社 印刷博物館蔵)

1862年(文久2)、江戸で麻疹が大流行した年に大量に印刷されたのが「麻疹絵」(はしかえ)です。病を軽くするまじないや、罹患した際の生活の心得(してはならないこと、食べてはならないものなど)が書き添えられているものもあります。錦絵やチラシに描かれた麻疹絵からは、医者や薬屋、街の人々の様子など当時の状況をうかがうことができます。


麻疹絵「毒だてやうじやう」
(凸版印刷株式会社 印刷博物館蔵)

江戸の祭と疫病退散

そもそも祭は、厄除け・疫病退散のために執り行われていました。悪霊退治や魔除けの人形を飾り立てた山車を曳き回した神田祭もその役割を担ってきました。江戸で麻疹が大流行した文久2年の夏は、疫病退散を願った人々が市中で山車を引き回しました。疱瘡、麻疹、コレラなど疫病が度々流行した時、祭はどのように行われていたのでしょうか。斎藤月岑の日記などから、当時の江戸の祭の様子を紹介します。

監修者

木下直之 静岡県立美術館 館長、神奈川大学国際日本学部 特任教授
1954年静岡県生まれ。専門は美術史・文化資源学。兵庫県立近代美術館、東京大学教授などを経て現職。美術、写真、博物館、見世物などを手がかりに19世紀の日本文化を研究。著書に『美術という見世物』(平凡社)、『わたしの城下町』(筑摩書房)、『股間若衆』(新潮社)、『銅像時代』(岩波書店)、『せいきの大問題』(新潮社)『動物園巡礼』(東京大学出版会)ほか多数。

滝口正哉 立教大学 特任准教授
1973年生まれ。専門は日本近世史・博物館学・民俗学。早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。立正大学大学院文学研究科博士課程満期退学。博士(文学)。千代田区立日比谷図書文化館文化財調査指導員、成城大学・立正大学 非常勤講師を経て現職。2006年、第3回德川奨励賞受賞(財団法人德川記念財団)。2010年、第26回江馬賞受賞(日本風俗史会)。著書に『千社札にみる江戸の社会』(同成社)、『江戸の社会と御免富─富くじ・寺社・庶民─』(岩田書院)、編著に『江戸の庶民文化』(共編、岩田書院)など。

新型コロナウイルス感染症対策について

より安心・安全な環境でお楽しみいただくために、アーツ千代田 3331の「新型コロナウイルス感染症対策およびご来場時のお願い」をこちらのページより事前にご確認いただき、ご来場の際にはマスク着用など当館の感染拡大予防対策にご協力ください。

状況により実施内容や時間等は急遽変更になる場合がございます。アーツ千代田 3331のウェブサイトやSNS、お電話にて最新情報をご確認の上、ご来場ください。

-お問い合わせ-

アーツ千代田 3331
〒101-0021 東京都千代田区外神田6丁目11-14
TEL:03-6803-2441
FAX:03-6803-2442

主催:アーツ千代田 3331
後援:千代田区、一般社団法人千代田区観光協会、社会福祉法人千代田区社会福祉協議会
協力:神田明神、NPO法人神田学会、株式会社吉徳
助成:公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京
公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京
監修:木下直之(静岡県立美術館館長、神奈川大学特任教授)、滝口正哉(立教大学特任准教授)